て」に白丸傍点]、人民の聲の寫眞機なり[#「人民の聲の寫眞機なり」に白丸傍点]。是故に伯は精確の意義に於ける英雄に非ず。伯は偉大なる凡人なり。國民の運命を左右せむとする主我的人物に非ずして、國民の運命と倶に進退するの時代的人物なり。維新の三傑と稱せられたる西郷、木戸、大久保は、各々維新の大業を以て自己の獨力に依りて成したるものゝ如くに思惟したりしやも知る可からず。軍制を改革し、自治制度を制定したる山縣侯は、此等の事業を以て自己の創意に出でたりと思惟するも知る可からず。又た憲法を立案したる伊藤侯は、固より議會を開きたるを以て自己の功なりとすべく、露國を征伐する現内閣員は、興國の雄圖は我等の手に依て斷ぜられたりと思惟すべきは無論なり。然れども大隈伯は[#「然れども大隈伯は」に白丸傍点]、個人の伎倆に重きを置かざるがゆゑに[#「個人の伎倆に重きを置かざるがゆゑに」に白丸傍点]、維新の大業も[#「維新の大業も」に白丸傍点]、法制の改良制定も[#「法制の改良制定も」に白丸傍点]、議會の開設も[#「議會の開設も」に白丸傍点]、大陸戰爭も[#「大陸戰爭も」に白丸傍点]、其他既往三十餘年間に於ける日本の發達進歩は[#「其他既往三十餘年間に於ける日本の發達進歩は」に白丸傍点]、總べて國民的運動の結果なりと思惟せり[#「總べて國民的運動の結果なりと思惟せり」に白丸傍点]。
 唯だ伯は善く時代精神を攝取し、善く人民の希望と一致するの性格を有すと雖も、之れを行ふの權力と久しく遠ざかりたるを以て、政治上に於ては長く逆境の人たらざるを得ざりき、然れども伯は其の朝に在ると野に在るとを問はず[#「然れども伯は其の朝に在ると野に在るとを問はず」に傍点]、常に人民の代表者たるを失はざるがゆゑに[#「常に人民の代表者たるを失はざるがゆゑに」に傍点]、其の社會的境遇は甚だ幸福にして[#「其の社會的境遇は甚だ幸福にして」に傍点]、其の生涯は頗る快活なり[#「其の生涯は頗る快活なり」に傍点]、伯は不幸にして權力を有せざるがゆゑに[#「伯は不幸にして權力を有せざるがゆゑに」に傍点]、至尊に侍して獻替の任を盡くすに由なしと雖も[#「至尊に侍して獻替の任を盡くすに由なしと雖も」に傍点]、人民の代表者として[#「人民の代表者として」に傍点]、間接に國家に貢獻するの功は[#「間接に國家に貢獻するの功は」に傍点]、復た沒す可からざるものあり[#「復た沒す可からざるものあり」に傍点]。特に日本國民の大飛躍を試みたる今日に際し[#「特に日本國民の大飛躍を試みたる今日に際し」に傍点]、伯の如き人民の代表者を民間に有するは[#「伯の如き人民の代表者を民間に有するは」に傍点]、國家の代表者として伊藤侯を朝廷に有すると相待つて[#「國家の代表者として伊藤侯を朝廷に有すると相待つて」に傍点]、時局を運爲するの二大勢力たるべし[#「時局を運爲するの二大勢力たるべし」に傍点]。
 凡そ國際問題は政府と政府との間に於て主として解决せらると雖も、最後の解决者は寧ろ國民なりといはざる可からず。故に内に在て民心を統一し[#「故に内に在て民心を統一し」に白丸傍点]、外に向て人民の思想感情を代表する人物の存在は[#「外に向て人民の思想感情を代表する人物の存在は」に白丸傍点]、國際問題の解决に對して大なる共力となるべし[#「國際問題の解决に對して大なる共力となるべし」に白丸傍点]。今や日露戰爭は啻に列國政府の注意を牽引したるのみならず[#「今や日露戰爭は啻に列國政府の注意を牽引したるのみならず」に白丸傍点]、又た深く列國人民の耳目を動かしたり[#「又た深く列國人民の耳目を動かしたり」に白丸傍点]、隨つて其の人民の思想感情が[#「隨つて其の人民の思想感情が」に白丸傍点]、其の政府の政策に隱然たる影響を與ふるものあるを知るときは[#「其の政府の政策に隱然たる影響を與ふるものあるを知るときは」に白丸傍点]、我日本人民と環視列國人民との間に思想の交通を開くの必要あるは論ずるを待たず[#「我日本人民と環視列國人民との間に思想の交通を開くの必要あるは論ずるを待たず」に白丸傍点]。而して大隈伯の如きは思想交通の一機關として頗る有効なる働らきを爲しつゝあるを記憶せざる可からず[#「而して大隈伯の如きは思想交通の一機關として頗る有効なる働らきを爲しつゝあるを記憶せざる可からず」に白丸傍点]。
 元來大隈伯は、未だ一たびも海外に出でたることなしと雖ども、其の屡々外務の當局者たることありしと、其の外交的辭令に嫻へる故とを以て、其の外人に知らるゝことは伊藤侯に亞げり。故に伯が野に在るの時と雖も、外國使臣は常に伯の門に出入して伯と意見を交換するを喜び、又た來遊外人の重もなるものは、其の公人たると私人たるとに論なく、大抵伯を訪問して其の謦咳
前へ 次へ
全125ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鳥谷部 春汀 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング