くれるのでした。絵巻きには長い顔や、大きな眼や、手拭かぶりや、蛇目傘《じゃのめがさ》や、柳の木や、黒塗の下駄などが、色刷の一枚ごとの美しさを競うように、眼うつりになって、きらびやかにちらついて見えるのでした。
此の稀《たま》の虫干しの日に、遂に私は粗相をしました。うっかり何かにぶつけて、父の大切にしている赤い絵模様の水差《みずさし》の握手《にぎりて》を折って了ったのでした。その時胸はドキドキと鳴り私はすぐには許しも乞えませんでした。でも
『もう済んで了ったことだ、これからは気をつけなさい』と父は気をとりなおして云ってくれました。此の時の父のやさしさは子供心にもふかく肝《きも》に応《こた》えたものでありました。
底本:「日本の名随筆18・夏」作品社
1984(昭和59)年4月25日第1刷発行
底本の親本:「鷹野つぎ著作集 第二巻」谷島屋
1979(昭和54)年4月
※「虫干し」は回想記「四季の子供」1941年に収録。
入力:砂場清隆
校正:菅野朋子
2000年7月28日公開
青空文庫作成ファイル:このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鷹野 つぎ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング