「わしはの、二宮金次郎が母親の気持を察した。あれには感心する。里子に出した赤児を慕って泣く母親の心を察してまたひきとってあげたという、あの察しの深さには、わしはなんとも物が云えないほどありがたい」
その後また長兄の家に戻った母娘は、今度は老いた母の考えつめた主張で、末娘に何か手職を持たせたい方針となり、やがてある百貨店の裁縫部へ住込ませることで、打開の道を見つけた。
とよ子が若い同僚たちに交って、他人のなかに住みはじめると、老いた母ははじめて安心して故郷へ帰った。
とよ子は縫い仕事が面白く、腕のあがったことも、きびしい主任に認められ出したが、一年足らずで十八歳の春には病いを発した。
長兄の家へ戻ってくると、とよ子の病気が伝染性のものと知って、嫂の恐れ方は一通りでなかった。自分の子供を一歩も近づけず、夫を促して、二三日のうちにもう、ここの私たちのベッドの一つに、とよ子を送りとどけて了った。
「わたしは入院したことを故郷の母に知らせませんでしたの。それよりも母の知らない間に早くよくなろうと思って、一生懸命養生しましたの」
とよ子はにこにこしながら、半年も経つとすっかり回復したよろ
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