いた母はそこで長男の嫁と三人の男女の孫たちの朝夕に接近した。肉身の家族は複雑さを増した。いたいけな孫たちは時々若い叔母を無視して、用事を女中のように言いつけたり、嫁もまた雑巾のあて方までに口を出す様子であった。
 老いた母は出歩きに伴われたり、美味しいものも馳走になったりしたが、この嫁の親切は老いた母の悲しみを余計|刳《えぐ》った。末娘に棘々しくあたる痛みが、どんな嫁のかしずきにも癒やされなかった。ある時にはもう一人の次男の家へも母娘は身を寄せた。そこには子供はなかったが、夫婦の間に母娘の食客がもとで、いさかいが始まることも度重なるようになった。
「とよ子さんは矢張り長兄《にい》さんの所にいるのが順席ですよ。そしてお母さんもなんとか早く故郷に帰えられなくちゃお差支えでしょう」と次男の嫁もすすめた。
 老いた母はものかげで末娘に云った。
「のう、とよ子、お前にも孝の道というものはわかるまい。親がああして欲しいこうして頼むというせつない気持を、深あく察するのが孝というもんだ」
 その時の母を語るとよ子のあどけない瞳には、さんさんと涙があふれ落ちていた。それからまた母は語をつづけたと云う。

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