方へはいって来た。前後の事情で問わずとも次兄の妻女ということが、私にはわかっていた。
 彼の女は重い腰を丸椅子におちつけると、もう初めから沈黙であった。とよ子も黙っている。それは、そうして相対して時を移している沈黙は長兄の嫂の場合の時よりも陰惨に感じられた。
 とよ子は今、その精神を寸断されている、と私は思った。人の生活の苦しみはどこにもあるし、云い分のある事情もそれぞれどこにもあるであろうけれども、人を余計者、生存に堪えがたくさせる仕打は、この世の最も冷酷な、理由の立たぬ態度ではあるまいか。
 暗い思いで沈黙していた声帯は、これほども濁るものかと思われるほどの、低い太い声で、やがてぽつりと肥満の女は云い出した。
「附添を置くつもり?」
 それに答えなかった。
「置かないでしょ、え?」
「………」
「置くの、置かないの、なぜ黙っているの」
「………」
 とうとうまたとよ子の啜り泣きがはじまった。それは病苦の弱りも手伝ってか、この前よりも幾倍も激しく、幾倍も私の心配を唆った。
 私はもはやこれまでと、決然となって、看護婦主任を呼ぶ気にもなった。秋草模様のまがいものとも見えぬ肥満の女の帯な
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