ど見ては、自分とて家族の苦痛を知る身でありながら、義憤もおこらずにいなかった。
私がベッドをおりて、決意を示そうとしていると、おどろいたことにはそこへ主任さんがはいって来た。
主任さんの態度は頗る淡々たるものであった。肥満した女に近づくと、
「あなたは坂上さんの御家族でしたね。再度御通知あげたのに、なんのご相談もないので、病院でも困っておりました。看護婦さんも一般の患者さんのお世話をしていますので、お一人に附ききりというわけには行きませんのです」
肥満した女はおとなしくお辞儀をした、主任さんの公務というものに権威を感じたのであろう。
「そういうわけですから、お判りになったら御承知として、今日夕刻からでも早速附添さんを附けることにします」
主任さんは今日となっては、当然返事を聞く余地もないものとして、そう定めて早くも室を出て行った。
漸くにも、これで坂上とよ子に附添婦がつくこととなった。五十がらみの人の好さそうなおばさんが、夕刻から来て、もうこまめに働らきはじめていた。
斯うしていつしか新秋を迎える頃となった。テレスには篠懸の鼈甲色の美しい落葉が、時々カサと音して散りおちた。
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