で、なかなか見舞いにも来られませんが」
「ほんとに病人がでますと、たいへんですね。私たちにもおぼえのあることで、そこは充分お察しいたします」
「そう有仰っていただくと、思うようにしてやれないで恥かしくなりますが、何分年のゆかない者のことなんで、いろいろ教えてやって下さいまし」
次兄はそう云うと軽いお辞儀を残して、再び妹のベッドの方へ戻って行った。
私はこういう煮えきらない近づきの挨拶ではあったが、それでも今に次兄が病院の事務室の方か、看護婦主任の室の方へ行くのではないかと心待たれた。既に再度の通知をうけて来ているはずのかれが、一刻も早くそうしないのが腑に落ちなかった。
とよ子のベッドの方では、先刻とまるきり別人のような低い優しい次兄の声がしていた。
「ね、何か欲しいものはないの、次兄さんが直ぐ表へ出て買ってきてあげるよ」
「………」
「お云い、云ってごらん。え? なんでも遠慮なくお云い」
「下痢してお肚が痛むの」と、重いとよ子の声がやっと聴きとれた。
すると次兄の声はふいに先刻のように大きくなって、
「それなら下痢止めの高価《たか》い良い薬が、ちゃんと買ってやってあるではないか
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