というたのしみもありましたがなア」
 次兄は仰向いて嘆息した。
 私はどういうものか自分の方からは何も云い出せなかった。とよ子に附添婦の必要なこと、切端つまった際であることなども、勿論云い添える気持など出て来なかった。それよりも、とよ子に間近いベッドにいる自分に、求めずしていろいろの事情が既に耳に伝わっていたことや、殊に今この室の間近くならんだ二つのベッドの様子を目撃した上は、一層ひとぎきというものをかれが、意に止めていることを私は見てとらずにいなかった。そう思えば先刻から高い大きな声で、妹に尽して来た数々の事柄をならべ立てていたのにも、頷けるものがあるように思われた。
 好い人なんだが、と私は次兄のおちつかない眼つきを見て思った。どうして私に苦境を了解させ、尤もと思われたいかを気にしているさまが判ってくるにつけ、そのことに努める一方で、それだけ、かれの気の済まなさも昂じているであろうということも、私には察せられずにいなかった。
 私が黙っていると、次兄はまた眼をおちつかなく動かして
「何分よろしくお願いします。私も只今重要な技術に携っていまして、人を督励しているような立場にもいますの
前へ 次へ
全31ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鷹野 つぎ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング