なってくれたと思って、あの頃は次兄さんは実にうれしかった。だからアパートの費用だってどんなに出し甲斐があったか知れない。癒ってくれたればこそのたのしみであったというものだ」
電灯がパッと点いた。
とよ子の方からは、一向啜り泣きらしきものも起きてはこなかった。こんなに勘定だかいことを云ってきかせる次兄にも、肉身の温情というものは通っていたものか。いやそうでも思わなければ、嫂に遇うた場合の時のように、とよ子の泣き出さぬ気持は解けなかった。
ふと次兄は私のベッドの方へ、踵をかえして近づいて来た。
「いやどうもいろいろお世話になります。あの娘の病気以来、故郷の母は死ぬやら、私どもも実に不幸つづきで……」
「お察しいたします」私も一礼した。
「何しろ兄なぞは故郷を出てから、しばらくはあの娘の生れたことも知らなかったくらいで、私なぞもごく幼さい時から別れていましたんで、妻《さい》なぞは、あの娘が母と一緒に上京してきた時になって、はじめてこんな妹があったのかと、驚いたくらいでしてね……」
「折角あんなにおおきくおなりになったお妹さんでしたに御病気なすって、ほんとにお察しいたします」
「これから
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