っては、もういろいろ食べられもしないだろう。あれほど気をつけよ、つけよと云いきかしていたのに、山歩きなんかしてさ。あんな仕立物なんてものでも、次兄さんは止せ止せと云ってとめていたろう。無茶な真似ばかりして、またこんなになって了って、それでは情けないではないか」
 こう一気に云うのを、矢張りとよ子は無言できいている様子だった。私は少々おどろいていた。附添婦を頼む用件で来たものと思われるのに、病妹をつかまえて意見をはじめているのは腑に落ちなかった。
 すぐ眼の前の相手に聴かせるには高すぎる声で、次兄はまだいくらでも云いつづけて行った。
「この前はじめてお前が病気を出した時、次兄さんがどんなに心配したかおぼえているだろうね。六円五十銭もするソマトーゼを服ませたり、一切五銭もする鯛のさしみをたべさせたり、お前だって忘れはすまい。円座が欲しいと云えばそれも買い、良い布団だってこの次兄さんの方で受持って作ってやったろう。どんな物入りだって構わずに、何んでもしてやったではないか。それだのになんてまあ不養生したもんだ。こんなに悪くなっては情けないではないか」
「………」
「お前が丈夫になって、いい娘に
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