一行を従え廻って行った。
 もうどうしても附添婦は必要であった。病院からは再度の通知が自宅へ発せられた。
 中一日隔てて今度訪ねてきたのは、私のはじめて見る次兄という人らしかった。長兄の言葉少い温厚な人柄ともちがって、鼠色の上等の洋服姿で丈も少し低く気短からしく慌てた足どりで、はいって来た。
 もう日暮れに迫り、まだ電気はつかなかったが、かわたれ闇のもの悲しいひと時であった。とよ子は繃帯の手首を布団の上に投げ出し、憔れた瞼をうとうとと閉じていた。そこへ果物包みらしいものを携げて近づいて行った次兄は、ただならぬ妹の寝がおを見るや、どういうものかまた果物包みを前方に差し出すように吊して、何ものにも触れぬよう通り路の中間をよろけるように歩いて、外へ走り出て行った。
 再び引き返して来た次兄の手にはもう何もなかった。
「とよ子」彼れは高い声で妹の眠りを呼びさました。
 眼を開いたとよ子は次兄を見ると、うれしそうな笑顔を見せた。けれどその笑がおもすぐと病苦のなかへ消え失せて、ただ無言の眼もとだけが次兄を迎えていた。
「お前はまあ」と次兄はつくづく妹を見ながら、大きな声で云いはじめた。「そんなにな
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