こでは地上の多くのものが視野にはいった。
鉄柵を超えると眼の前に一筋の野径が横断して、それに接して彼方へ、見渡すような広い畑地と、草藪の原が展けていた。私は殆ど驚喜してこの広い展望から眼が放せなかった。
そればかりか歩道が、その草藪の原に添うて、むこうに遠く見える街のはずれに続いていることにも気がついた。人がチラホラ通って行った。街のはずれから小さい人影が現われたかと思うと、だんだん大きくなって近づき通りすぎて行った。その通りすぎて行く近くに南窓で見て知っていた病院の裏門もある筈であった。
私はこれほど再び世間の物音に近づいた現在が、ふしぎにも思われた。寝台車でここに運ばれ再び見ることもないかもしれぬと思った街路の近くに、また私は来ていた。むしろ私よりも軽いと云われた病児が、先立ったことにも月日に潜む測りえぬ恫喝が迫っていたことが思われた。
私は新らしい自分のベッドにかえり、感謝に満ちて身を安めた。不幸中の幸福がどんなに深いものであるかを、回復に向う私の心身は噛み占めた。過ぎ去った多くの苦悩や、現在の心配ごともこういう時には、晴れた空の片隅に吹き寄せられた淡い雲の塊りのようであ
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