られたのであった。
私は香ぐわしい空気を呼吸しながら、レントゲン室や、医務室の渡廊下を過ぎ左折して、しめやかな気の湛うている第二病棟の廊下を踏んだ。
今度の室は特殊有料者向きに設けられた八畳ほどの広さで、二つならんだベッドの間には衝立が境いしていた。私には窓が中庭に面した方のベッドに定められたが、床頭台の傍らには洋風の戸棚なども置かれ、病院用の器具も新らしくて、すべて立派な感じがした。
私は看護婦さんの手助けでベッドに身のまわりのものを収めると、何よりもまず隣りの空いたベッドのわきを通って、そちらの外を眺めてみた。敷居から一段低くなって病室の前は広いテレスになって居り、藤の安臥椅子が、いくつとなく、棟のテレスを蓋うた深い廂の下の、はずれからはずれまでとびとびに置いてあった。
テレスに私は下りてすぐ前の椅子の一つに腰かけ、あたりを眺めた。病院境いの鉄柵までには夾竹桃などの咲いた芝生があって、テレスに添うては篠懸《すずかけ》の一列の木かげが、あたりを青く染めたように、濶い葉を繁らせていた。
私はおどろくばかり豊富な、土や草の香いを吸い込んだ。二階から眺めたあの南窓の風物よりも、こ
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