夕方勤務を了えた看護婦さんがテレスにいた私に、鉄柵ごしに一抱え[#底本は「一抱へ」、32−10]の野草を摘んで渡してくれた。
「なかなか、野趣でしょ」と看護婦さんが云うので、私も親切に答えて早速花瓶に挿しましょうと云った。
 野草を揃えなおしてみると、萩に似てそうでないもの、麦に似てそうでないもの、蘭や碗豆や水引草に似て悉くそうでないもの、それらのいかにも似方に努めている野草の姿には、また別の憐れさもあった。
 試みに私は手もとのうすい植物略図を手にとってみると、猫萩というのがあり、イヌ麦というのがあり、じゃのひげ、鴉の豌豆、おにどころ、などというのが目に入り、今私の見ている雑草がそれらしくもあった。
 病床のひまで私はこれを、矢張り自然の意志の中に生きる雑草のはかない努力と思って、何となく身につまされた。不完全なものの悲しみはこういう世界にもあって、本性がどうしても足らないのであった。
 だが野草の中にも純粋なものがあった。露草、野菊、蚊帳つり草、風ぐさなどは私の眼にはささやかでも、本物に咲く草花と一緒に好もしかった。で、私はそれらをえり分けて花瓶に挿した。
 暑さが募ってきてからは
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