に袷を三枚仕上げた時には、電灯の下の眼も霞んだことがありましたわ」
 これであらかたの話の種も終ったのであったが、私は新らしくとよ子を見直す思いがした。この額の清い瑞々しい面をした娘が、これほどの悲しみや苦労を内に湛えていたとは、ふしぎなほどであった。
 無口で返事がわるいと、嫂たちにおこられて来たそうだけれど、無理な仕事の疲れや、再発の兆《きざし》で物憂いこともあったにちがいなかった。
 病室には暑い日がやって来た。いったん歩行がつきはじめてからは、私はテレスの風の吹き通う藤懸の下に出ずにはいられなかった。八月のはじめにかかってからは、草藪の繁りもひどかった。白花を点々と咲かせた箒草や、鋸のような葉を尖がらせた薊や、いろいろのいらくさや、きれいな野菊やひる顔や、水引草や、一本の高い茎に細長い葉だけを瓶洗いのブラシみたいに飾った途方もないつまらぬ草や、そういう無数の繁みに、さらに匍いまわる、いろいろな蔓草が、繁りを締めつけて、日の目も射さぬ草の丘をあちこちに盛りあげていた。
 雑草の可憐な花を愛した私は、また雑草のなかにいかに本物の草に似せたものがあるかにも、今さらおどろいていた。ある
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