が、どうもこれは當にならないやうだ。
 それから五箇月程經つて私は又別の船で南洋から内地へ歸つて來た。この船は初めの船とは違つて大變設備がいゝ船であつた。船客も少く、而も私が一等船客の主席であつた。その爲に客室も立派であつたし、入浴も眞先にボーイさんが案内してくれた。
 浴室は頗る豪華なものであつた。何だか内地のホテルへ歸つて來たやうな氣がした。しかし矢張り大理石のバスの中は鹽湯だつた。石鹸を溶かしても一向溶けないあの鹽湯である。
 しかしこの時には私はもう大分鹽湯の扱ひに馴れてゐた。眞水を使つても、小さな桶に三杯使へば充分であつた。これは戰線に於て長い間巡洋艦などに乘つてをつて貴重な眞水の使ひ方を充分會得した爲であつた。
 船が愈※[#二の字点、1−2−22]内地へ近付き、もうあと一晩である港に入るといふ夜、眞水の風呂がたてられた。この時ばかりは文字通り蘇生の思ひがした。何しろ往きと違つて、歸りには戰地で得た皮膚病が猛烈にひどくなつてをつた。水虫はいゝ藥があつてうまく治してゐたが、當時第何回目かの汗疣に罹つてゐたし、もつと困つたことにはいんきんは非常にひどくなつてゐた。おまけに戰地で
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