らぬと。ところが、どつこい、Qは2であらねばならぬ。3であることは許されない。なぜならば、QとNとは共に偶數なりと、さつき決定したばかりだから。
21N
______
1M5)2TPAI
2I0
―――――
2PA
1M5
――――
111I
10N0
――――
MI
第四の鍵は、比較的樂であつたから、あとはもういいだらうと安心すると、たいへんな間違ひが起る。
ここで六段目と七段目の眞中を見る。11[#「11」は縦中横]から0N[#「0N」は縦中横]を引きMが殘りとなつてゐる。この關係を書き直すと N+M=11 となる。前にNは偶數と分かつてゐるから、Mは奇數でなければならぬ。
奇數といつても、既に1と5とが決まりずみだから、Mは3、7、9のどれかであらねばならぬ。
ところがMについては、もう一つ制限がある。それは三段目のところで、除數の 1M5 に2をかけて 2I0 となつてゐるが、Mは4か、4より小さい數でなければならぬ。なぜならMが5以上なら計算は二桁の數となり、三段目の左端は2とならずに3に變つてしまふからである。Mは4か、4よりも小さい數でなければならぬといふ條件を、前に導き出したMは3か7か9のどれかであるといふ條件に加へると、當然Mは3であるしかない。これが第五の鍵だ。
さきに N+M=11 といふ關係が明かになつてゐたから、このMを3に置きかへると、Nは當然8だと分る。
それで除數は 135、答は 218 であると分つた。もうこれで後はがちやがちや解ける。すなはち下に示すやうな計算になつて、この問題はりつぱに解けたこととなる。名探偵の勝利である。さあ、シャンパンでも拔かうかといふ順序になるわけだ。シャンパンがなければ鐵管ビールで間に合はせておけ!
218
______
135)29467
270
―――――
246
135
――――
1117
1080
――――
37
C=1
M=3
L=5
Q=2
T=9
P=4
A=6
I=7
N=8
S=0
次は非常にむつかしい問題の一例として、一數字の外は全部穴ばかりといふ例題を出してみる。こんな問題が推理だけで解けるとは思はない人が少くないであらうから、推理でちやんと追込んで行けるといふところをお知らせしたい。
【例題七】[#「【例題七】」は底本では「【例題八】」]一目見ただけでこれが難問題といふことがはつきり分る。分つてゐるのは、答の千位の數字が7だといふだけである。この穴を埋める答がもしも出たとしたら、それは出鱈目のまぐれ當りか、それとも初めから問題を知つてゐたせゐだらうと邪推する人があるかもしれない。しかしさうではなく、やはり推理の力でどんどん押していつて、これが解けてくるのである。もちろん大骨が折れる探偵事件であるが、さやうに大骨が折れるところが、また虫喰ひ算ファンにとつて、實にこたへられない快味である。では取懸ることとしよう。
□7□□□
_________
□□□)□□□□□□□□
□□□□
――――――――
□□□
□□□
―――――――
□□□□
□□□
――――――
□□□□
□□□□
―――――
0
まづ第一着手は0を探すこと。これは容易である。答の十位の□は0である。なぜなれば、八段目をよく見ると一度に上から二桁下りてゐる。だから答の十位は0であることは歴然である。そこで□の中に0を書き込む。
次は、答の萬位と一位は、共に7より大なる數字だと分る。つまり8か9であらう。なぜなら、7の場合は、計算すると五段目のとほり三桁であるのに、萬位の計算である三段目も、一位の計算である九段目も、共に四桁の數字である。であるからして、どつちも7より大きい8乃至9であることが分る。
それから次は、六段目の左端に目をつける。これは1であらねばならぬ。七段目で一桁下つて引いてあるが、その下にも何もないのであるから間違ひなくそれは1である。
それから今度は、二段目左端の除數の百位の數字が1であらねばならぬと判定を下す。なぜなれば答の千位の7を、三桁の除數に掛けたものが、五段目に出てゐる如く、やつぱり同じ三桁であるからには、除數の百位の數字は1であらねばならぬ。もし2以上であつたら四桁以上になるから不合理だ。
三段目左端と、九段目左端は、共に1であらねばならぬ。なぜなら、除數の百位の數字が今1と決まつた以上は、この四桁の數字の左端はどんな數字を掛けようが1以外にはなり得ない。
すると八段目左端も1であらねばならぬ。なぜなれば、この八段目は九段目と同一であるからである。
まあこの邊で、原運算を整理して下に示して置かう。但し▲は、8か9かのどつちかだといふことを示す。
▲7□0▲
_________
1□□)□□□□□□□□
1□□□
――――――――
□□□
□□□
―――――――
1□□□
□□□
――――――
1□□□
1□□□
―――――
0
かうしてやつと七八つの穴は解いたが、のこりの穴は三十二ホールだ。前途遼遠の感を深うする。
さて、元氣を出して次に掛る。
二段目の除數の十位の數字は2以下である。つまり2か1か0であらねばならぬ。なぜなれば、五段目左端は7か、或ひは8故(これが6以下では六段目の左端は1とはならず[#「これが6以下では六段目の左端は1とはならず」はママ。五段目は 1□□の7倍だから五段目左端は7以上になります。]、又9であれば0となるから不合理)、除數の十位の數字が2と1と0以外では五段目左端が7或ひは8とならない。
ところが、なほよく檢討すると、それが0では不合理で、2か1かのどつちかに狹ばめられる。なぜなら、それが0では、除數は 10□となるわけだから、これに答の萬位の數字と思はれる8を掛けようが9を掛けようが、共に三桁の數となり、三段目や九段目に示されるやうな四桁の數とはならないからである。
次に、一段目の答の百位の數字は8である。なぜなれば、除數は既に追込まれたとほり、12□か 11□のどつちかである[#「どつちかである」は底本では「どつちかある」]が、それに百位の數字を7と假定して掛けたのでは 84 又は 77 となり、六段目四桁目の 1□□□からそれを引いて、その殘りが八段目の左端の1の如く二桁も下るためには不都合である。これはどうしても8でなければ成立たぬ。
答の百位の數が8だと決まれば、答の萬位の數及び一位の數は共に9でなければならぬ。そのわけは8でさへ三桁である。しかるに萬位のも一位のも共に四桁であるから、これは9であるしかない。
これで、答の數は全部判明した。すなはち□7□□□は 97809 であると決まつた。
尚、七段目左端は9である。なぜなれば、これを8だとすると、その下に何か數字が殘る、しかし實際にはこの下には何にもないのであるから、9であるしかない。
これだけのことを計算に書入れてみると下のやうになる。
97809
_________
1□□)□□□□□□□□
↑ 1□□□
2 ――――――――
又 □□□
は □□□
1 ―――――――
1□□□
9□□
――――――
1□□□
1□□□
―――――
0
[#八段目九段目左端「1」は底本では「□」]
さあ、あと一息である。
除數の十位の數は2か1かのどつちかであると、既に追つめられてゐる。この問題を片づけるのは比較的樂である。これまで當つてきたところから考へると、それは1であるよりも、2である方がずつと有力である。そこでこれを假りに2と考へる。
すると、除數は 12□の形となつたわけ。
さうだとすると、除數の一位の數は、4又は4より小さい數でなければならぬことになる。なぜなれば、七段目[#「七段目」は底本では「五段目」]に於いて、124×8=992 であり、それが5以上では 125×8=1000 となつて四桁になる。しかるに七段目[#「七段目」は底本では「五段目」]は三桁であるから、除數の一位の數は4、又は4より小さい數字であらねばならぬ。
これを4とすると、除數は 124 となる。これと先に判明した答の 97809 とで、この計算を行つてみると下のやうになる。
97809
_________
124)□□□□□□□□
1116
――――――――
□□□
868
―――――――
1□□□
992
――――――
1□□□
1116
―――――
0
[#八段目左端「1」は底本では「□」]
97809
_________
124)12128316
1116
――――――――
968
868
―――――――
1003
992
――――――
1116
1116
―――――
0
このあとは逆にやつて行くと穴の中は全部數字で埋められるが、その結果はすこしも不都合がなく上のやうになる。これが答だ。やれやれ骨を折つた。
解法は、何もこれ一つに限らず、もつといい別の方法があつてもいいわけで、よく考へて頂きたいものである。
このへんで例題の解説は打切ることとする。
四 “虫喰ひ算”大會について
いよいよこれから「“虫喰ひ算”大會」を開催する。第一會場から第三十會場まである。一會場につき、いづれも四題ぐらゐづつが掲げてある。じつくりとぶつかつて、推理の力により答を出して頂きたい。
空白の頁は、こまかい計算をしたり、またやり直すのに便利なために明けておいた。
一日に一會場以上は進まない方がよろしいと思ふ。どんどん通つてしまつては、頭も痛くなるであらうし、珠玉のやうな虫喰ひ算の味が十分は味へないと思ふ。
四問題のうち、初めの二問題か三問題は比較的やさしいが、後に出て來るものは大分むつかしくなつてゐる。
また最初のうちの會場は、わりあひ樂であるが、會場が進むにつれて、だんだんむつかしくなつて來る。第二十會場あたりからあとは相當お骨が折れて頭から湯氣を出されることと思ふ。その代り十分骨折り甲斐のある虫喰ひ算の魅力を滿喫せられることであらう。
尚、これらの答は、わざとつけてない。答を操つてみて、「ははあ、なんだこの□は9か」などとやられては、虫喰ひ算の妙味はなくなつてしまふ。もしやり方に詰つたら、その前の例題を復習して、虫喰ひ算の解き方のこつ[#「こつ」に傍点]を會得せられ、それからもう一度問題と取組んでいただきたい。
第一會場をパスすれば、第一階選士となられる。かくてどんどん進んで、第三十會場をパスすれば、當然第三十階選士として最高の名譽を獲得せられるわけで、メダルでも出したいところであるが、生憎手許にないのは遺憾である。
第三十階選士になつたからといつて、この虫喰ひ算の書はつまらないものと化したわけで
前へ
次へ
全8ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐野 昌一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング