と見たところでは、何が何だか見当がつかず、まるで突然火星国へ不時着したような当惑を感じ、取りつく島もなさそうに思われる。しかし、いつもいうとおりに、名探偵らしくじっくりこれを観察していれば、やがて秘密の扉を開くべきすばらしき鍵を発見することができ、思わずにっこり微笑まるることであろう。
 さて、いよいよこの覆面算の探偵に移ろう。

 名探偵が、第一に目をつけたところは、上から五段目の CML である。これは除数である CML と全く同じではないか。大発見、大発見!
 然らば、この五段目の計算を導くに至った答の十位の数Cは1であらねばならぬ。そうですねえ。すなわち計算の中のCを悉《ことごと》く1に書き改めて、上の如くに整理をする。

      Q1N
   ______
1ML)QTPAI
    QIS
    ―――――
     QPA
     1ML
     ――――
     111I
     1SNS
     ――――
       MI

 さあ、こんどはどこに第二の鍵を発見すべきであろうか。うん、これだ。三段目の右端のSが曲者である。このSの上はPである。またこのSの下も同じPである。PからSを引いて答はPだ。P−S=P。これは変な関係だ。いや変ではない。こういう関係はSが0のときのみに成立つ。これでいい。第二の鍵はこのSが0であることだった。
 そこで運算書の中のSを0として再び書き改める。これで大分明るくなった。
 いや、まだ安心するのは早い。前途にどんな難関が横たわっているか分らない。

      Q1N
   ______
1ML)QTPAI
    QI0
    ―――――
     QPA
     1ML
     ――――
     111I
     10N0
     ――――
       MI

 いよいよ第三の鍵の発見に掛る。さあ、それはどこにあるか。今度はなかなか手ごわい。ほほう、これは気がつかなかった。これらしいぞ、第三の鍵は!
 今求めた三段目の「Sは0なり」のところであるが、ここに0を書き入れたについては、除数の一位の数のLと答の百位の数のQをかけた結果である。つまりLとQとかけて、その答の一位が0となったのである。そういう場合は、LとQとのいずれかが5であり、他の数が偶数でなければならぬ。(誰です、LかQが0の場合でもいいじゃないかといった方は……。0は既に出ていますよ。Sは0であると、さっき導き出したばかりです)――さて、これだけでは決定的でないが、もう一つ目をつけるべきところがある。それは七段目の右端の数字も、同じく0であることだ。この0は、除数のLと、答の一位の数のNとを掛け合わせた結果出てきたのである。するとさっきと同じ理窟から、LとNとのどっちかが5であり、偶数であらねばならぬこととなる。
 そこでLが5であることが確定される。なぜなれば、前にはLとQのいずれかが5か偶数かとあり、今またLとNのいずれかが5か偶数かとなったからには、この両条件を共通に満足すべき答としては、Lが5である場合しかない(また聞えましたよ、誰ですか。Lが偶数であってもいいではないかといいましたね。とんでもないことです。Lが偶数なら、初めの条件によりQは5となります。すると後の条件のとき、つまりLとNのいずれかが5であり偶数であるというときには困ってしまうではありませんか)。とにかくこうしてLは5、そしてQとNとは偶数だということが分った。早速これを書き入れると上のようになる。

      Q1N
   ______
1M5)QTPAI
    QI0
    ―――――
     QPA
     1M5
     ――――
     111I
     10N0
     ――――
       MI

 このへんで貴君が「虫喰い算て面白いなあ」と心臓をどきどきされたとしたら、それは既に虫喰い算の「鬼」が貴君にのり移ったことの証拠である。一旦この「鬼」にとりつかれたら、お気の毒ながら(?)、貴君はもう一生涯、虫喰い算のファンとして離れられなくなる。決して嚇《おど》かすわけではないが、事実がそうだから仕方がない。
 余計な話はやめて、次へ進む。第四の鍵はどこにあるか。四段目のQであるが、この下に1がある。その下にも1がある。するとQから1を引いて1が出たわけだ。するとQは1と1との和の2であるか、それともQは下位へ1を貸してあって、本当は3であるかもしれないと臆測される。つまりQは2又は3であらねばならぬと。ところが、どっこい、Qは2であらねばならぬ。3であることは許されない。なぜならば、QとNとは共に偶数なりと、さっき決定したばかりだから。

      21N
   ___
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