れわれに披露したが、さすがに当人には匿《かく》してゐたらしい。悪意の批評ではないまでも、少しばかり的を射すぎてゐると思つたのだらう。Sは世話ずきな男だつた。
なるほどさう言はれてみれば、Gには人間を鉱物に還元して考へるやうなところがあつた。そのためには先《ま》づ自分自身を、鉱物に還元するのである。自然との対話によつて、やうやく自分の孤独を満たしたやうな人なら、古来めづらしいことではない。さういふ人たちは好んで自分を草木に化する。Gはそれができない性格だつた。あるひは草木の時代を、まだ自分が生まれないずつと遠い昔に経過してゐるのかも知れなかつた。がとにかく、そんな人間は詩歌など作らぬ方がいい――と、例の理知派の詩人は皮肉つてゐるらしく思はれた。その詩人は、その後まもなく毒薬自殺をした。そしてGは、やがて忘れたやうに歌を作らなくなつた。
Gは、大学では建築をやつた。卒業設計は大がかりな綜合《そうごう》病院のプランだつた。いよいよ出来あがつて提出する前、彼は大きな図面を何枚もわれわれに見せて、かなり丁寧に説明してくれたものだが、今ではもう、おそろしく沢山《たくさん》の棟《むね》に分れた複
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