せ、荒野に羊の群を追はせることができた。女性のミイラも二三体あつた。男よりも一段と小柄で、一層しなび疲れてゐるやうに思へた。そのためか恥骨の隆起がするどく目についた。あの下には子宮が枯れ凋《しぼ》んで、まだ残つてゐるだらうか――僕はふつと、そんな妙なことを考へた。多分のこつてゐるだらう――僕は自分に答へた。畏怖《いふ》といつてもいいほどの何かみづみづしい感動だつた。僕は情慾の脈うちを感じた。そればかりか、からだの一部にひそかな充血をさへおぼえた。
 彼らはひつそりと横たはつてゐた。もし小声で呼びかけたら、千三百年のヴェールを払ひのけて、むつくり起きあがつて来さうな気がした。それはまつたく確実なことのやうに思はれた。そんなむくろの群を、いつのまに西へ廻つたのか、まるで落日のやうに赤ちやけた反射光が、静かに照らしてゐた。影が深くなつて、そのためミイラたちは浮き立つやうに見えた。僕は時計を見た。もう三時近かつた。僕はまるで古代の重みから脱《のが》れでもするやうに、急ぎ足で外へでた。そして眩《まぶ》しいほど白い、ひろびろした街路へ出ると、ほつと大きな息をついた。アカシヤの並木がかすかにそよいで
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