飜訳の生理・心理
神西清

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)飜訳《ほんやく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#ローマ数字9、1−13−29]
−−

 飜訳《ほんやく》について何か書けということだが、僕の飜訳は専門ではなくて物好きの方らしいから、別にとり立てて主義主張のあるわけでもない。ただ近ごろはやりの単色版的飜訳ということでちょっと感じたことがあるので、それでも書いて見よう。
 単色版的飜訳というのは、いうまでもなく野上豊一郎氏の提唱にかかるもので、「原物の意味だけを理知的に伝える」ことだけで満足しようとする、いわば合理主義的な行き方の名称である。ところでこの説の設定しようとする飜訳の限界はたしかに一応は正しいものだと思う。この説の聡明《そうめい》さもまずもって認められて然《しか》るべきかと思われる。ただその聡明さは、うちに無限の矛盾を含みながら保たれている調和――という気味を、多分に含んでいることを免れないようである。言いかえると、この説
次へ
全7ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング