いうことになる。成程あまり感服のできる将軍ではない。畏《かしこ》くも主上《しゅじょう》は満城紅緑為誰肥と諷諫《ふうかん》せられた。それも三日坊主で聞き流した。横川景三《おうせんけいさん》[#ルビの「おうせんけいさん」は底本では「おうせいけいさん」]殿の弟子|分《ぶん》の細川殿も早く享徳《きょうとく》の頃から『君慎』とかいう書を公方に上《たてまつ》って、『君行跡|悪《あ》しければ民|順《したが》はず』などと口を酸くした。それもどこ吹く風と聞き流した。俺は相国寺の焼ける時ちょっと驚いたのだが、あの乱戦と猛火《みょうか》が塀一つ向うで熾《おこ》っている中を、折角《せっかく》はじめた酒宴を邪魔するなと云って遂《つい》に杯を離さず坐《すわ》り通したそうだ。あれは生易《なまやさ》しいことで救える男ではない。政治なんぞで成仏《じょうぶつ》できる男ではない。まだまだ命のある限り馬鹿《ばか》の限りを尽すだろうが、ひょっとするとこの世で一番長もちのするものが、あの男の乱行|沙汰《ざた》の中から生れ出るかも知れん。……
「そこで近頃はやりの下尅上《げこくじょう》はどうだ。これこそ腐れた政治を清める大妙薬だ。
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