ーヴィチは名残りの一瞥をメステーチキ村へ送ったが、するとまるで、とても馴染みの深い親しい人に別れでもするような、ひどく遣瀬《やるせ》ない気持になってしまった。
さて眼を返して行手に横たわっているものを眺めれば、それはみんなとうの昔からお馴染みの、さっぱり面白くない光景ばかりだった。右を見ても左を見ても、まだ背丈の低いライ麦の畑と蕎麦畑で、白嘴烏がぴょんぴょん跳ねているばかり。前方を眺めれば、見えるのは埃と後《うしろ》あたまの行列だし、あとを振向いても、見えるのは同じ埃と人の顔だけだった。……一ばん先頭には刀《とう》を手にした四人の男が足並そろえてゆく――これが前衛だ。その後には軍歌隊の一団がつづき、軍歌隊のあとには乗馬の喇叭隊が進む。前衛と軍歌隊は、葬列の松明《たいまつ》持ちがよくやる伝で、のべつに正規の距離のことを失念して、ずんずん前へ出てしまう。……リャボーヴィチは第五中隊の第一砲車についている。彼には前に進んでゆく四つの中隊が残らず見える。軍人でない人が見たら、行進中の旅団があらわすようなこの長ったらしい重苦しい行列は、やけに七面倒くさい、ほとんど了解に苦しむごしゃごしゃ騒ぎに
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