子《りゅうこ》といつた。
 伊曾は実にさまざまの女を知つてゐた。女たちが彼の庭の向日葵《ひまわり》のやうに、彼の皮膚を黄色い花粉で一ぱいにしてゐた。彼は飽かなかつた。伊曾は野蛮な胸を有つてゐた。
 実に多くの女たちが彼の周囲には群《むらが》つてゐた。彼はもともと卑しい心の持主ではなかつたから、自ら少しは人のいい驚きを感じてゐたのに異《ちが》ひないのだが、しかも片つぱしから機械的な成功を収めて行つた。それは昆虫たちにとつて地獄である南方の或る食虫花を思はせる行為だつた。
 数多い伊曾の情婦たち――自ら甘んじて伊曾の腕に黄色い肉体を投じたこれらの女たちのうちで、劉子だけは謬《あやま》つて伊曾に愛された女性と謂《い》ふべきであつた。つまり伊曾が劉子を愛したのは少女としてより寧《むし》ろ少年としてであつた。ただ若い女性の性的知識の不足が、この伊曾の愛し方の異ひを彼女自身に悟らせなかつたばかりである。それにせよ結果は同じことだつた。劉子はアポロの鉄の輪投げの遊戯のため額《ひたい》から血を流して花に化したヒヤシンスのやうに、最後には伊曾によつて頸《くび》に血を噴くことになり、自らの少年であることを
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