しかしこの奇妙な綽名は鋭敏な嗅覚《きゅうかく》の少女たちの間にすばやく拡つて行つた。この符牒《ふちょう》の裏にポアント――鋭い尖、の意味を了解したのも彼等独特の鋭い感応がさせる業《わざ》にほかならなかつた。
その郊外の日当りのいい学園には沢山《たくさん》の少女たちが、自らの神経によつてひなひなと瘠《や》せ細りながら咲いてゐた。彼らの触手が学園のあらゆる日だまりに青い電波のやうに顫《ふる》へてゐた。その少女たちが蕁麻《いらくさ》の明子をどうして嗅《か》ぎつけずにゐよう。彼女らの或る者は嗅ぎつけない前に、この蕁麻に皮膚を破られて痛々しく貧血質の血を流した。
明子は畸形《きけい》的に早い年齢に或る中年の男と肉体的経験を有《も》つてゐた。彼女自身にとつては全く性的衝動なしに為《な》し遂《と》げられたこの偶発事件は、彼女を肉体的にではなしに、精神的にのみ刺戟《しげき》したかの様であつた。混血の少女たちによく見られる蒼《あお》ざめた痿黄病《いおうびょう》的な症状が彼女を苦しめはじめた。とぎ澄された彼女の神経は容赦なく彼女自身のうちに他の少女たちと異つた要素や境遇を露《あら》はにした。神経は残酷
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