について行ってくれと仰しゃるんですの。そこでわたしが着替えをしていますと、そのひまに二人は(というのはつまり、弟のやつとその娘さんだがね――)お茶のテーブルで差向いになっていましたの。そのあとで弟さんは、『そら、あんな素晴らしい娘さんがいるじゃありませんか! この上なんのかんのと選り好みをすることがあるもんですか、――あの人を貰ってください!』って、そりゃもう大騒ぎなんですの。」
 僕はこう返事をした、――
「さてさて、舎弟はいよいよ以て御乱心と決まったわい。」
「まあ、なぜですの」と、家内は逆襲してきた、――「なぜこれが『御乱心』にきまっていますの? 常ひごろ、あんなに尊重してらしたことを、なんだっていきなり手の裏を返すようなことを仰しゃるの?」
「僕が尊重してたって、そりゃ一体なんのことだい?」
「そろばん抜きの共鳴よ、心と心の触れ合いよ。」
「いやはや、おっ母さんや」と僕は言ったね、――「そうは問屋が卸さんぜ。それが良いも悪いも、時と場合によりけりだよ。その触れ合いというやつが、何かしらこうはっきりした意識、つまり魂や心のはっきり目に見えた長所美点といったものの認識――に基いてい
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