てことはまずあるまいね?
 全くあっと思うまもあらばこそ、たちまちもう大晦日が来ていた。よろこびを待ちもうける気分は、ますます濃くなってくる。世間の人は誰もかれも、よろこびごとを祈念して胸をわくつかせているが、もとより僕たちも敢えて人後に落ちなかった。僕たちは又もやマーシェンカの実家で新年を迎えたが、それこそわれらが先祖の言葉じゃないが『たらふくたべ酔うた』もので、まさに『飲む楽しみはロシヤならでは』という先祖の名言を、みごと実証してのけた次第だった。そのなかで、ただ一つだけ芳ばしくないことがあった。というのは他でもない、――マーシェンカの親父さんは、相変らず持参金のことはおくびにも出さずにいたが、その代り娘に、奇妙きてれつな贈物をしたのだ。いや、奇妙なばかりじゃなくて、後になって僕にも分ったことだが、それは全く許すべからざる、縁起のわるい贈物だったのだ。彼は夜食の最中に、一同の眼のまえで、手ずから娘のくびに、立派な真珠の首飾りをかけてやったのだよ。……われわれ男連中は、その品物を一瞥して、むしろ『こいつは素晴らしいわい』と思ったものだった。
「ほほう、――あれは一体どのくらいの値打ち
前へ 次へ
全41ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング