、なんだかその……ひどく現実的だなあ。」
 そのじつ内心では、なるほどその通りだ! と思ったね。
 家内はことばをつづけて、――
「思案はもう沢山だわ、――とにかく幸先《さいさき》はいいんだから、さあ早く服を着かえて、一緒にマーシェンカのところへ行きましょうよ。わたしたち、今日はあの家でクリスマスを迎えることになっているのよ。それにあなたも、あの子や弟さんに、お目出とうを言わなくちゃいけないわ。」
「恐悦至極」と僕は言って、一緒に出かけた。

      ※[#ローマ数字4、1−13−24]

 先方に着くと、まず贈物の捧呈式があり、ついで祝詞の言上があり、それからわれわれ一同は、シャンパーニュ州の妙なる美酒にいいかげん酩酊した。
 もはや斯くなる上は、思案も相談も諫止《とめだて》も、いっさい手おくれだ。残されたことはただ一つ、婚約の二人の行手に待っている幸福にたいする信念を、一同の胸中に守《も》り立てて、シャンパンを飲むだけである。まあそんなあんばいで、あるいは僕の家で、あるいは花嫁の実家で、日は夜につぎ、夜は日についだというわけだった。
 そうした気分でいると、時の長さを覚えるなん
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