と思うかね?」
「わたしの顔が見たかったからよ。」
「ちがう、――僕は君の性格を研究していたんだ。」
家内は、ほゝゝゝと笑いだした。
「そら笑いはよしてくれ!」
「そら笑いなんかじゃなくてよ。そんなこと仰しゃったって、結局なに一つわたしの研究なんかなさらなかったのよ。それに第一、お出来になるはずもなかったのよ。」
「どうしてだい?」
「言ってもよくって?」
「ああ頼む、言ってくれ!」
「それはね、あなたがわたしに恋しちまったからよ。」
「まあ、それもよかろう。だがそれが僕にとって、君の精神的な性質を見るうえの妨げになったわけでもあるまい。」
「なったわ。」
「いいや、ならん。」
「なったわ。しかも誰にだって妨げになるものなのよ。だから、いくら長いことかかって研究したところで、なんの役にも立ちゃしないのよ。あなたは、相手の女に恋していながら、しかもその女を批判的に見てらっしゃる[#「その女を批判的に見てらっしゃる」に傍点]おつもりだけれど、実は空想的にぼんやり眺めてらっしゃる[#「空想的にぼんやり眺めてらっしゃる」に傍点]に過ぎないのよ。」
「ふうむ……だがなあ」と僕、――「どうも君は
前へ
次へ
全41ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング