いものだよ。」
「そりゃ、なるほど求婚はしますわ、――けれど、念入りに選り分けるとか慎重に選り分けるなんていうことは、とてもあり得ないことですわ。」
 僕はかぶりを振って、こう言った。――
「もう少し、自分の言ってることを、検討して見ちゃどうかね。例えば僕はこうして、君というものを選んだじゃないか、――それというのも、君を尊敬し、君の長所を見抜いたからじゃないか。」
「嘘ばっかり。」
「嘘だって?」
「嘘ですとも、――だって、あなたがこのわたしを選んだのは、決して長所を見ぬいたためなんかじゃないんですもの。」
「じゃ、なんだというんだい?」
「わたしのことを、ちょいといい女だ、と思っただけのことだわ。」
「いやはや、君はじぶんには長所なんかないとでも言うのかい!」
「とんでもない、長所ならちゃんとあります。でもあなたは、わたしのことをいい女だとお思いにならなかったら、やっぱり結婚はなさらなかったでしょうよ。」
 僕は、なるほどこれは一本参ったと思ったね。
「そうは言うけどね」と、僕は陣容を立てなおして、――「僕はまる一年も待って、君の家へかよったじゃないか。どうして僕がそんな真似をした
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