あの厭らしい裁判所に入りびたりなんですもの。とても待っちゃいられなくなって、婚約をとりかわしてしまったのよ。」
「一段と結構じゃないか」と僕、「ぼくを待つことなんかありゃしないさ。」
「あなた、それは皮肉ですの?」
「皮肉だなんて、とんでもない。」
「それとも、当てこすりですの?」
「いいや、当てこすりもしやせんよ。」
「どっちにしたって無駄骨ですわよ。だって、いくらあなたがギャアギャア仰しゃったところで、あの二人とても幸福な御夫婦になるにきまってますもの。」
「無論さね」と僕、――「君が太鼓判をおす以上、そうなるにきまってるさ。……諺にもあるじゃないか、『思案あまって貧乏くじ』ってね。選り分けるなんてことは、もともと出来ない相談なのさ。」
「まあまあ」と家内は、プレゼントの籠の蓋をおろしながら、――「あなたったら、わたくしども女を選り分けるのは、さもあなたがた男の特権みたいに思ってらっしゃるのね。ところが本当は、そんなこと愚にもつかない空中楼閣なんですわ。」
「へえ、どうして空中楼閣なんだい? 願わくは、娘さんの方で婿えらびをするのじゃなしに、婿さんの方から娘さんに求婚するのでありた
前へ
次へ
全41ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング