ちはもう二六時ちゅう裁判所に詰めきりという始末、この分じゃちょっとクリスマスまでに片づく見込みも立たず、したがって僕は家へはただ飯を食って一寝入りするために帰るだけ、日中と夜の一部分とは|法律の女神《テミス》の祭壇の前ですごすといった体たらくだったのさ。
 その一方、家の方では、事はどしどし運んでいてね、いよいよクリスマス・イーヴというその夕方に、やっとこさで法廷の仕事から解放されて、ほっとして僕が帰宅してみると、待ってましたとばかりいきなりもう、豪勢なバスケットを眼の前へ突きつけられて、さあ一つ検分して頂戴という註文なんだ。そのバスケットには、弟のやつがマーシェンカへ贈物にする高価な品々が詰まっているのさ。
「こりゃあ一体なんだい?」
「花聟さんから花嫁さんへのプレゼントですわ」と、家内が説明する。
「うへっ! もうそこまで来たのかい! いやお目出とう。」
「勿論《もち》よ! 弟さんは、もう一ぺんあんたと相談した上でなくちゃ、正式の申込をするのはいやだと言うんですけど、とにかくああして婚礼をいそいでらっしゃるでしょう。ところがあなたといったら、まるでわざと意地わるをしているみたいに、
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