に折よくにしろ折あしくにしろ、まざまざとわれわれ男子の罪悪を思いださせてくれもするし、いやそれのみか、縫ってくれた白い柔手《やわで》までが、まざまざと思いだされて、いきなりそれに接吻して、俺が悪かった、赦しておくれ――と言いたくなっちまう。
「赦しておくれ、ねえお前、さっきはついお前の言葉で、むらむらっとしてしまったが。もうこれからは気をつけるからね。」
そいつがまた、白状するとね、一刻も早く謝まりたくって矢も盾もたまらず、その拍子につい目が覚めちまって、起きあがりざま、書斎からのこのこ出ていったものさ。
見ると――家じゅうまっ暗がりで、シンとしている。
「奥さんはどこだい?」
って女中にきくと、
「奥さまは弟さまとご一緒に、マリヤ・ニコラーエヴナのお父様のところへ、お出ましになりました。只今すぐお茶をお入れしますから」という返事だ。
『こりゃ驚いた!』と僕は思ったね、――『するとつまり、あいつとうとう我を張りとおすつもりだな――相変らず弟のやつを、マーシェンカと一緒にしようっていうんだな。……ええ、どうなりと勝手にするがいい。そしてマーシェンカの狸親父に、上の二人の婿さん同様、
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