てやったものだ、――
「おい、なんぼなんでも卑劣だぞ!」
すると家内は澄まし返って、
「|憚り様《メルシ》、あなた。」
※[#ローマ数字3、1−13−23]
「ええ、くそ、なんてざまだい! おまけにそれが、とっても幸福な、ほんの一瞬の間だって波風ひとつ立った例しのない、夫婦生活四年間のあげくの果てと来ていやがる!……忌々しい、業っ腹だ――やり切れん! なんて馬鹿げたこったろう。しかも事の起りはそもそも何だ!……みんな弟のやつのせいじゃないか。おまけにこの俺が大人気もなく、こんなにカンカンに息み返るとは、なんてざまだい! 弟のやつはもうちゃんと一人前の大人で、どこの誰が好きになろうと、どこの誰を嫁にもらおうと、じぶんで判断する資格があるわけじゃないか?……やれやれ、今どきじゃもう、生みの息子にだってそんな指図をするのは流行らんというのに、いまだに弟は兄貴の言いなり放題にならなきゃならんというのかい。……第一そんな監督をする権利がどこにある?……そもそも、この俺が、これこれの嫁をもらえば行末はこれこれになるなんて、確信をもって予言できるような、千里眼になれるとでもいうのか
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