な、仕損じたかなと僕は思つて、再び狙ひを定めてぶつ放した。今度もたしかに手ごたへあつて、黄色い頭は丘のうしろにがくりと落ちた。大丈夫だらうとは思つたが、万一の用心に暫《しばら》く様子を窺《うかが》つた。今度は参つたと見えて、頭はそれなり現はれない。そろそろと僕は歩み寄る。するとまあ何としたことだ、又してもむつくり黄色い頭がもちあがつたぢやないか。何たる往生際《おうじょうぎわ》の悪い奴《やつ》だ、と僕は思はず舌うちしたね。そこで再び銃をとり直し、慎重の上にも慎重に狙ひを定めて火蓋《ひぶた》を切つた。何しろこの僕が腕に縒《よ》りをかけた一発だ。頭は三たび丘の蔭に落ちたんだ。今度こそは大丈夫とは思つたが、それでも十分ばかりは様子を窺つてゐたね。相手が頗る獰猛《どうもう》な奴かも知れんからな。しかし今度は参つたと見えて一向頭は現はれない。そこでそろりそろりとその丘を登つて、こつそり樹蔭《こかげ》から現場を覗《のぞ》いて見た。……どうだい、わかるかね。僕がそこに何を見出したと思ふかい?
 さあ、分からんなあ、と相手が答へる。
 なあに君、虎が三匹枕を並べて討死《うちじに》したまでの話さ。……
 
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