中ほどに立つて、互ひにもたれ掛つたり隠しあつたりしてゐる絵の上に、あてどのない視線をさまよはせてゐました。自画像らしい描きかけの絵もありました。白|鬚《ひげ》の老人の肖像もありました。風景画はほとんどなく、大抵は人物や街頭の光景を扱つたものでしたが、ふとその下から半分ほど覗いてゐるかなり大きな絵に目を惹《ひ》かれて、それを邪魔してゐる絵をそつと片寄せたとき、千恵の注意は思はずその画面に釘づけになつてしまひました。
 あれは何号といふのでせうか、四|尺《しゃく》に三尺ほどの横長の絵でした。前景には瘠《や》せこけて骨ばつた男の裸体が、長々と画面いつぱいに横たはつてゐます。そのすぐ後ろの中央には、黒衣の婦人が坐《すわ》つて、どこか中有《ちゅうう》を見つめてゐます。そのうしろには氷河だか石の壁だか、とにかく白々《しらじら》とした帯が水平に流れ、背景ははるかな樅《もみ》の林らしく濃い緑いろでした。千恵が注意をひきつけられたのは、なかでもその婦人の眼つきでした。はじめは中有を見つめてゐるやうに思へたその眼が、よく見ると殆《ほとん》どねむつてゐるのでした。その重なり合つた上下の目蓋《まぶた》の間から
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