立てるところでした。青ぶくれの男の子が起きあがつてゐたのです。いつのまにか、音もなく、まるで姉さまの眼の磁気に吸はれでもしたやうに立ちあがつて、手すりにつかまりながら、じつと姉さまの方を見てゐるらしい様子でした。……
………………………………………
サラサラと衣ずれの音がして、すぐ後ろで人の気配が迫りました。ぎよつとして振り返ると、あの若い保姆さんでした。「また来たわね。ふん、厭《いや》んなつちまうね」と、ぞんざいな妙にガサガサした声で保姆さんは言ふと、千恵の顔にちらりと嘲《あざ》けるやうな眼を投げ、かなり手荒くその男の子をうしろ抱きにしてベットに寝かせました。子供はべつにもがくでもなく、弾力のなくなつたゴム人形みたいにそのまま寝息を立てはじめました。
ふと気がついて窓の方を見ると、顔はもう消えてゐました。
「あんた初めて? ぢや、ちよいとびつくりするわねえ」と保姆《ほぼ》さんは案外なれなれしげな調子で言つて、またちらりと千恵の顔を見ました。――
「特別室の患者さんよ、三日にあげずああして覗《のぞ》きに来るわ。」
「何かこの部屋に、縁のつながつた子供でもゐるのですの?」
「ば
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