て、こつそり廊下の小窓へ寄つて、唐草模様の銅|格子《ごうし》ごしにそつと堂内をのぞき込みました。すると姉さまがいらしたのです。思ひがけないほど近いところに、その小窓からほんの二三人目のところに、大柄な上半身をつつましく前こごみに跪いてゐるのが附添看護婦のFさんでした。その肩に頬《ほお》を寄せかけるやうにして、うつとりと祭壇の方を見あげてゐる蒼白《あおじろ》い横顔が、姉さまだといふことはすぐ分りました。予期の的中したあまりの思ひがけなさに、千恵がはつと息をつめた瞬間、姉さまの顔が閃《ひら》めくやうにこちらを振り向きました。千恵は思はずぞつと立ちすくみました。けれど気のせゐだつたのです。会衆が一どきに立ちあがりました。千恵はとつさに、さも入口のすぐ外に跪《ひざまず》いてゐたやうな身ぶりを装つて、流れ出る会衆の先頭に立つて礼拝堂を離れました。
廊下のわかれる角まで来て、千恵は四五人の見習看護婦や看護婦をやりすごしながら、そこにじつと立つて、東側の廊下へまがる人の群に目をつけました。ちらりとFさんの恰幅《かっぷく》のいい肩が見え、その陰からまたしても閃《ひら》めくやうに、姉さまの白い顔がこち
前へ
次へ
全86ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング