、どうぞこの千恵をお気のすむまでお責めください。
 幸ひ千恵は、頭もさう悪くないさうで、そのうへ医学にはぜひとも必要な或る沈着さが女には珍らしくあるとのことで、G先生には割合ひ信用のある方らしいのです。それで今度の学年のはじめから、夕方から夜にかけてG先生の自宅の方へ代用看護婦のやうな資格で住みこませていただくことができるやうになり、おかげでまたこの冬も、同級の誰かれがそろそろ気に病んでゐるやうなアルバイト苦労から一応たすかつてゐるのです。同級のかたがたの中には、洋裁店の外交や政党の封筒書きあたりならまだしものこと、キャバレーのダンサーだの絵かきのモデルだのをまで志願してゐる人があるのです。それどころか現に三人ばかり、平生《へいぜい》から半ば公然とお妾《めかけ》稼業をして学資にあててゐる人たちもあるくらゐです。でもみんな仲よく助け合つて毎日やつてをります。いづれ行き着く先はいろいろと違ひが出てくるのでせうが、まだ今のところはさつぱり分りません。ただその日その日があるだけです。
 そんな生活をしてゐる千恵のことですから、当てどもなく姉さまの行方をさがすやうな時間のゆとりもなく、その伝手《
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