こから2字下げ]
フィールス登場。外套をもってきたのである。
[#ここで字下げ終わり]

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フィールス (ガーエフに)さあさ、旦那さま、お召しになって。じめじめして参りましたよ。
ガーエフ (外套を着る)お前には閉口だよ、爺《じい》や。
フィールス あきれたお人だ。……今朝だって、黙ってふらりとお出かけにはなるし。(彼をじろじろ眺めまわす)
ラネーフスカヤ なんて年をとったの、お前は。ええフィールス!
フィールス なんと仰しゃいましたので?
ロパーヒン お前さんがひどく老《ふ》けたと仰しゃるんだよ!
フィールス 長生きしましたからな。いつだったか、嫁をとれと言われた時にゃ、あなたのお父さまもまだこの世に生れておいでになりませんでしたよ。……(笑う)解放令([#ここから割り注]訳注 一八六一年に公布された農奴解放令[#ここで割り注終わり])が出た時にゃ、わたしはもう下男頭になっておりました。あの時わたしは、自由民になるのはご免だと申して、引きつづきご奉公をいたしましたよ。……(間)当時は、忘れもしませんが、みんな面白《おもしろ》おかしくやってお
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