。
ロパーヒン そりゃそうです。正直のはなし、われわれの暮しは馬鹿げています。……(間)うちの親父《おやじ》はどん百姓で、アホーで、わからず屋で、わたしを学校へやってもくれず、酔っぱらっちゃ殴りつけるだけでした――それも棒っきれでね。底を割って言えば、わたしもご同様、アホーで、でくのぼうなんです。何一つ習ったことはなし、字を書かしたらひどいもんで、とても人さまの前には出せない豚の手ですよ。
ラネーフスカヤ 結婚しなくちゃいけないわ、あなたは。
ロパーヒン なるほど。……そりゃそうです。
ラネーフスカヤ うちのワーリャはどう? いい子ですよ。
ロパーヒン なるほど。
ラネーフスカヤ あの子は百姓のうちから貰《もら》われてきて、あのとおりの働きもんだし、第一あなたを愛していますわ。それにあんただって、とうからお好きなんだし。
ロパーヒン そりゃまあ、わたしも嫌いじゃありません。……いい娘さんです。(間)
ガーエフ わたしを銀行へ世話しよう、と言ってくれる人があるんだがね。年収六千というんだが……。聞いたかね?
ラネーフスカヤ 柄《がら》でもないわ! まあ、じっとしてらっしゃい……
[#こ
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