だったわ。……
ガーエフ ああ妹、可愛い妹! ……
アーニャの声 ママ! ……
トロフィーモフの声 おーい! ……
ラネーフスカヤ いま行きますよ! (ふたり退場)
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舞台からになる。方々のドアに錠をおろす音がして、やがて馬車が数台出て行く音がきこえる。ひっそりとする。その静けさのなかに、木を伐《き》る斧《おの》のにぶい音が、さびしく物悲しくひびきわたる。
足音がきこえる。右手のドアから、フィールスが現われる。ふだんのとおり、背広に白チョッキをつけ、足には室内ばきを穿《は》いている。病気なのである。
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フィールス (ドアに近づいて、把手《とって》にさわってみる)錠がおりている。行ってしまったんだな。……(ソファに腰をおろす)わしのことを忘れていったな。……なあに、いいさ……まあ、こうして坐っていよう。……だが旦那《だんな》さまは、どうやら毛皮外套《シューバ》も召さずに、ただの外套でいらしたらしい。……(心配そうな溜息《ためいき》)わしの目が、つい届かなかったもんでな。……ほんとに若《わけ》え
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