いだして、「そうそう、昔あのなんとかいう奴……シメオーノフ=ピーシチクという男もいたっけな……安らかに昇天せんことを」とでも言ってください。……いや、すばらしい上天気ですなあ。……まったく……(へどもどして退場。が、すぐ引返してきて、ドアのところで)うちのダーシェンカが宜《よろ》しくと申しました! (退場)
ラネーフスカヤ さ、これでもう出かけられる。じつはわたし、発って行くのに、気がかりなことが二つあるの。一つは――病気のフィールス。(時計をのぞいてみて)まだ五分ほどいいわ……
アーニャ ママ、フィールスはもう病院へやったわ。ヤーシャがけさやったの。
ラネーフスカヤ もう一つの心配は――ワーリャのこと。あの子は、早起きをして働きつけてるものだから、今じゃ仕事がなくて、魚が水をはなれたも同然よ。痩《や》せて、顔色が悪くなって、可哀そうに泣いてばかりいるわ。……(間)あなたはそれを、よくご存じのはずね、ロパーヒンさん。わたしはこう思っていましたの……あの子をあなたのところへとね。それにあなたのほうでも、お見受けするところ、結婚なさりそうな模様でしたものね。(アーニャに耳うちする。アーニャ
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