しようと、歩きまわろうと、食べようと、玉を突こうと、それについてとやかく仰しゃれるのは、物のわかった人か目上のかただけですよ。
ワーリャ よくも言えたね、わたしにそんなことが! (カッとなって)言ったわね? つまりわたしが、わからずやだと言うんだね? とっとと出てくがいい! さあ今すぐ!
エピホードフ (怖気《おじけ》づいて)もう少々その、デリケートな言葉で、どうぞ。
ワーリャ (われを忘れて)さっさと出てけったら! さ、出てけ! (エピホードフがドアの方へ行くのを、彼女は追う)二十二の不仕合せめ! お前のにおいがプンとでもしたら承知しないよ! 二度とその顔を見せてもらうまい! (エピホードフ退場。ドアの向うで、「あなたのことを、言いつけますからね」という彼の声がする)おや、また返って来るんだね? (フィールスがドアのそばに立てかけておいた杖をつかむ)さあ来い……来るならおいで、目にもの見せてやるから。……来るんだね? え、来るんだね? よおし、こうしてやる……(杖をふりあげる、とたんにロパーヒン登場)
ロパーヒン これはどうも恐縮。
ワーリャ (怒りと嘲笑《ちょうしょう》をまぜて)失礼!
ロパーヒン どうしまして。結構なご馳走《ちそう》で、あつくお礼を。
ワーリャ 礼には及びません。(その場から離れ、やがて振りかえって、やさしく尋ねる)お怪我《けが》はなかったかしら?
ロパーヒン いや、なあに。もっとも、でっかい瘤《こぶ》ぐらいできそうですがね。
広間の声々 ロパーヒンが来た! ロパーヒンさんだわ!
ピーシチク いよう、これはこれは、ようこそご入来《じゅらい》……(ロパーヒンにキスする)この可愛《かわい》い男は、ちょっぴりコニャックの匂《にお》いがするな、おい君。われわれもこの通り、愉快にやっとるよ。
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ラネーフスカヤ夫人登場。
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ラネーフスカヤ まあ、あなたでしたの、ロパーヒンさん? どうしてこんなに遅かったの? レオニードはどうしまして?
ロパーヒン お兄さまも、一緒に戻《もど》られました。すぐ見えます……
ラネーフスカヤ (わくわくしながら)で、どうでしたの? 競売はありまして? さ、話してちょうだい!
ロパーヒン (嬉しさを外へ出すまいとして、しどろもどろに)競
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