花のようだ、ですって。
ヤーシャ (あくび)無学な連中だ……(退場)
ドゥニャーシャ 花のようだ、ですって。……あたし、そりゃデリケートな娘だもので、うっとりするような言葉が大好き。
フィールス そろそろおっぱじめるな、お前さんも。

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エピホードフ登場。
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エピホードフ ああ、ドゥニャーシャさん、あなたは僕《ぼく》を見るのが、さも厭《いや》そうですね……虫けらかなんぞのように。(ため息をつく)あわれ人生よ、だ!
ドゥニャーシャ 何のご用ですの?
エピホードフ もちろんそりゃ、あなたの方が正しいのかも知れない。(嘆息する)しかし無論ですな、その……ある観点からすると、あなたという方は、まあ率直に言わせて頂くとですな、要するに僕を、こんな精神状態に落し入れてしまったと、あえて言わざるを得んのです。僕は自分の宿命を承知している。僕の身には、毎日かならず何かしら不仕合せが起るし、僕はもうとうに馴《な》れっこになって、おのれが運命を微笑をもって眺《なが》めています。要するにですな、あなたは一たん約束された。で、よしんば僕が……
ドゥニャーシャ どうぞそのお話は、のちほどに願いますわ。今はあたしを、そっとしておいてちょうだい。だって、空想してるんですもの。(扇をもてあそぶ)
エピホードフ 僕は毎日不仕合せにぶつかります。しかし僕は、あえて言えばですな、ただ微笑しています、いや、ハッハッハと笑ってさえいます。

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広間からワーリャ登場。
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ワーリャ お前まだここにいたの、エピホードフ? ほんとに、なんていい加減な人間だろう。(ドゥニャーシャに)お前もあっちへおいで、ドゥニャーシャ。(エピホードフに)玉突きをしてキューを折ったかと思えば、お客さま面《づら》をして客間を歩きまわったりして。
エピホードフ こう申しては失礼ですが、あなたからお小言を頂く筋合いはありません。
ワーリャ 小言なんか言ってやしない、話をしているんだよ。することと言ったら、仕事はそっちのけで、ふらふら歩きまわることばかり。せっかく執事をやとっても、なんのためやら――わかりゃしない。
エピホードフ (ムッとして)わたしが仕事を
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