迎えに集まったものと見え、手に手に花束をさげていた。ここでもやはり際立って目につくのは、おしゃれなヤールタの群衆に見られる二つの特色だった。年配の婦人達の若作りなことと、将軍が大ぜいいることである。
海がしけたので船はおくれて、日が沈んでからやっとはいって来た。そして波止場に横着けになる前に、向きを変えるのに長いことかかった。アンナ・セルゲーヴナは柄付眼鏡《ロルネット》を当てがって、知り人を捜しでもするような様子で船や船客を眺めていたが、やがてグーロフに向かって物を言いかけたとき、その眼はきらきらと光っていた。彼女はひどくおしゃべりになって、突拍子もない質問を次から次へと浴びせかけ、現に自分で訊《き》いたことをすぐまた忘れてしまった。それから人混みのなかに眼鏡をなくした。
綺羅《きら》びやかな群衆がそろそろ散りはじめ、もう人の顔の見分けがつかなくなり、風もすっかり凪《な》いでしまったが、グーロフとアンナ・セルゲーヴナは、まだ誰か船から降りて来はしまいかと心待ち顔の人のように、その場に立ちつくしていた。アンナ・セルゲーヴナはもう黙り込んで、グーロフの方は見ずに花の匂いを嗅《か》いでい
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