ずいと指さし)Resistantia《レジスタンシヤ》 宗の教祖となつて、死すれども死せず、死せざれども生ぜず、永劫《えいごう》にロギカの亡霊となつて中有《ちゅうう》をさまよひ、今また四百歳の後、姿をここに現ず、哀《あわ》れむべし、汝《なんじ》ハビアン。……」
 柏翁がここまで言つたとき、不思議なことが起つた。もつとも妙なことばかり起る日だから、今更どんな珍事がもち上つても大して驚かないつもりだが、とにかく忽然《こつぜん》として梅庵も復員服も、かき消すやうに失《う》せてしまつたのである。あとには例の白い幟が、これまた地上を離れて、ふはりふはりと空へ舞ひあがる。松の木をかすめ家なみを越え、うしろの山へ飛んで行く。その白い地色に、ちらちら紅い色のまじるのは、例のRの大文字がちらつくのか、それとも夕焼けの色が映るのか。それはもう確めるすべもなかつた。……



底本:「日本幻想文学集成19 神西清」国書刊行会
   1993(平成5)年5月20日初版第1刷発行
底本の親本:「神西清全集」文治堂
   1961(昭和36)年発行
初出:「朝日評論」
   1950(昭和25)年1月発行
※ルビ
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