い人たちは推量したものである、『恋の闇路にふみ迷い、てなところだな。おかみさん、セルゲイとてっきりアレなんだが、まあそいだけのことさ。――なにもこちとらの知ったことじゃなし、因果はやがて、おかみさんの身に報いようというものさ。』
そうこうするうちにセルゲイは全快して、しゃっきりしゃんと立ち直り、また元どおりの水も滴たらんばかりの若い衆ぶり――いや、いっそ手飼いの鷹とでもいいたいほどの英姿を、カテリーナ・リヴォーヴナの身辺にあらわしはじめて、またもや二人のあいだには愛慾ざんまいの日ごと夜ごとが再開したのだった。とはいえ、時はなにもこの二人のためにばかり、めぐっていたのではない。長らく家を留守にしていたまに、顔に泥をぬられた良人ジノーヴィー・ボリースィチも、このとき帰宅の道をいそいでいたのである。
※[#ローマ数字6、1−13−26]
ひる飯のすんだあとは、焼けつくような炎暑だった。おまけに、すばしこい蠅がところ嫌わず張りついて、精も根もつきるばかり煩さかった。
カテリーナ・リヴォーヴナは、寝間の窓の鎧戸をおろしただけでは気がすまず、そのうえ窓の内側に分厚な毛織りのシ
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