ョールを垂れ掛けて、食後の午睡をとるため、ちょっとした丘ほどの高さは優にありそうな商人のベッドに、セルゲイと共臥しに横たわった。横になってはみたものの、カテリーナ・リヴォーヴナは、うとうとしかけては、またはっと目がさめるといった調子で、夢ともうつつともさっぱり区切りがつかない。ただもう暑苦しくってたまらず、顔じゅう玉なす汗でべっとりの有様、それにつく息までが、燃えつきそうな息ぐるしさだった。もうそろそろ目をさましていい時分だ――と、カテリーナ・リヴォーヴナは心のなかで感じている。庭に出ていって、お茶を飲む時間だ――とは分っていながら、いつかな起きあがる気持になれない。とうとう仕舞いに、おさんどんが上ってきて、ドアをとんとん叩いて、『サモヴァルが、林檎の木のしたで、そろそろ燼《おき》になりますですよ』と催促する始末だった。カテリーナ・リヴォーヴナは、むりやりに上半身をぐるりと寝返らせると、すぐその手で猫をくすぐりはじめた。その猫というのは、おかみさんとセルゲイの間にのうのうと丸まっていたのだが、見るからに立派な、灰色の、大柄でむくむくと肥えふとった奴で、おまけにそのぴんとおっ立った髭とき
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