んなことが言えたもんだな」と、彼はカテリーナ・リヴォーヴナを面罵しはじめた。
「ゆるしてやって」と、こちらはいつかなひるまずに、「良心にかけて、これだけは誓います、――わたしたちの間には、うしろ暗いことはまだこれっぽっちもなかったんです。」
「うしろ暗いことは」と老人、「なかっただと!――そういう舌のさきから、ぎりぎり歯がみをしよるわい。――じゃあ一つお尋ね申すが、いったいお前たちは毎晩毎晩、あそこで何をしていたというんだ? 亭主の枕の詰物を、打ち直しでもしてやってたのかい?」
だがこっちは、ゆるしてやって、ゆるしてやって、の一点ばりだった。
「よおし、そういうことなら」と、ボリース・チモフェーイチは言った、――「こうしようじゃないか。おっつけ亭主が帰って来ようが、その上でわしら二人の四本の手でもって、お前さんという天晴れ貞女を、馬小屋で思いっきり叩きすえさせて貰おうじゃないか。一方あっちのやくざ野郎は、あすにも早速、牢へ送りつけるとしようて。」
そうボリース・チモフェーイチは、一応ほぞを固めたのだったが、ただその決心は、残念ながら向うからはずれた。
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